2024年4月、静かなニュースが教育界に波紋を呼びました。
「京都ノートルダム女子大学、2026年度から学生募集停止」――そして、2029年3月に閉学予定。
「え?あの上品な女子大が?」
「名前だけは聞いたことある…でも閉まっちゃうんだ…」
そんな声が、SNSや教育業界を中心にじわじわと広がっていきました。
一言で言えば「定員割れが続いたから」とされていますが、本当にそれだけでしょうか?
時代の流れ、教育の変化、社会の価値観の移り変わり――
この記事では、かつて“お嬢様大学”として知られたこの大学が、なぜ静かに幕を引くことになったのかを、多角的に掘り下げていきます。
■ 1. 定員割れという結果は「すべての終着点」
京都ノートルダム女子大学の公式発表や報道では、「定員割れが続いたことが理由」とされています。
2024年度の入学者数はわずか186人。定員は330人なので、およそ56%しか埋まっていないという状況。
そしてこれは、2021年度以降ずっと続いていた現象でした。
「このまま続けても厳しい」「今のうちに段階的な整理を」――そんな声が内部で強まったのは、自然な流れかもしれません。
とはいえ、全国には定員割れしても頑張っている大学もたくさんあります。
では、なぜノートルダム女子大はここで“終わり”を選んだのか?
それを考えるには、もっと根っこにある要因を見ていく必要があります。
■ 2. かつては“お嬢様大学”としてキラキラしていた
今の若い世代にはピンと来ないかもしれませんが、京都ノートルダム女子大学はかつて「お嬢様大学」として、関西圏ではひとつの憧れでした。
- 静かな左京区に佇む落ち着いたキャンパス
- カトリックの精神を背景にした品位ある教育
- 英語・国際教養に強く、海外研修にも力を入れていた
- 系列のノートルダム女学院は制服姿が話題に
いわば「上品で、凛としていて、ちょっと特別感のある大学」。
90年代〜2000年代初頭までは、関西の中高一貫校に通う女子の間で一定の人気を誇っていました。
でも、時代は流れました。
“お嬢様”がブランドだった時代は過ぎ去り、「等身大で、実用的で、コスパのいい」大学が選ばれる時代へと、価値観がガラリと変わってしまったのです。
■ 3. 女子大という存在自体の“再定義”
少し踏み込んだ話になりますが、「女子大」という存在そのものが、いま再定義の時代に来ています。
- 「女子に特化した教育」は、今でも必要?
- 「共学の方が社会に近いのでは?」という学生の声
- 「性別に分ける意味があるのか」という社会的な視点
京都ノートルダム女子大学も、国際系・保育系など女子のキャリアに寄り添う教育をしていましたが、それを「女子大ならではの強み」として打ち出すのが難しくなっていたのではないかと思います。
特にZ世代は、「性別で環境を限定されること」に対して慎重な感覚を持っている人も多いです。
だからこそ、“女子大”という選択肢を避ける流れが、少しずつ強くなってきたのかもしれません。
■ 4. 少子化という“静かな爆弾”
言うまでもなく、日本の18歳人口は激減中。
1992年:約205万人 → 2025年:約110万人台へ。
実に、30年で約100万人以上が消えたという計算です。
この大激減のインパクトは、特に「地元志向・女子大学・私立単科大学」にダイレクトに響きます。
競争が激化する中、「知名度がそこまで高くない」「全国から人を集めづらい」大学は、定員を埋めること自体が年々難しくなっているのです。
これはもう、“大学の努力不足”で片付けられないレベルの話。
京都ノートルダム女子大も、この大きな波の中で、静かに苦しんでいたはずです。
■ 5. 京都という「学生の聖地」でのサバイバル
京都という土地は、文化的にも教育的にも魅力のある都市です。
でもそれは同時に、**「大学間の競争がえげつない」**ということでもあります。
京大、同志社、立命館、龍谷、京都女子、佛教大、精華、京都芸術…
数々の有名大学が集結するこの街では、「目立たなければ埋もれる」のが現実。
京都ノートルダム女子大は、規模も小さく、学部も限られていたため、どうしても“大手私大”に志望者を取られてしまいがちでした。
立地的には魅力的でも、それが“選ばれる理由”にはなりづらかったのかもしれません。
■ 6. 学部の“就職力”と学生ニーズのミスマッチ
ここ数年、大学選びはどんどんシビアになっています。
「何を学べるか?」よりも、「卒業後どうなるか?」が重視されているのが現実です。
看護・情報・福祉・観光・公務員・国家資格――
就職に直結する分野を持つ大学が人気を集める中、京都ノートルダム女子大は人文学・語学中心のカリキュラムでした。
もちろん、これらの学問は“教養”として素晴らしい。
でも“即戦力”や“専門職志向”が重視される今、それだけではなかなか志望理由にはなりにくい。
「学びたい気持ち」と「実利」が、うまく噛み合わなかったのかもしれません。
■ 7. コロナが変えた進学の価値観
2020年以降、コロナが大学選びに与えた影響は計り知れません。
- 「遠方進学はやめて地元にしよう」
- 「私立より国公立を選ぼう」
- 「通学しなくても授業は受けられるし…」
こうした価値観の変化が、小規模私大にとってはさらに厳しい風となりました。
“雰囲気”や“環境”で選ばれていた大学ほど、オンライン化で差が見えづらくなり、存在感を失っていったのです。
京都ノートルダム女子大も、まさにこの「時代の変化」に巻き込まれた一校だったと言えそうです。
■ 最後に:閉学は「失敗」じゃない。“責任ある幕引き”という選択
今回の閉学は、決して「大学の質が悪かった」「人気がなかった」からではありません。
むしろ、真面目に女子教育と向き合ってきた**“誠実な大学”だったからこそ、無理をせず、静かに幕を閉じるという決断をした**のだと感じます。
この判断には、**「学生に迷惑をかけたくない」「系列校の教育は守り続けたい」**という学校法人の良心がにじんでいるようにも思います。
歴史ある大学が消えていくのはやはり寂しいですが、それは「時代の変化への対応」であり、「終わり」ではなく「新しい節目」なのかもしれません。
■ 他の大学も“対岸の火事”ではない
最後にひとつ、この記事を通して伝えたいことがあります。
京都ノートルダム女子大の閉学は、決して特別な話ではない。
全国の大学が、今まさに同じ課題に直面しているのです。
- 少子化と人口集中
- 学びの“実利化”
- 社会構造の変化と進路多様化
この状況の中で、「どうすれば大学として選ばれるか?」
「本当に今の学び方で良いのか?」を、すべての大学が問われています。
そして私たちも、「進学とは何か?」「大学で何を学ぶのか?」を、もっと深く考える時代に来ているのかもしれません。
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